福井大学医学部

泌尿器科学

教育内容紹介

当講座の研究は尿路性器悪性腫瘍部門、腎臓部門、下部尿路機能部門、性機能部門より構成される。福井県では平成15年度より主な16の市町村で前立腺検診が開始され、前立腺がん症例が急増している。市町村合併に伴い自治体数は減少しているが、前立腺検診受診者は増加しており、全県的に検診が普及するよう活動を行っている。このような状況のもと、当講座では遺伝子レベルの基礎的研究のみならず、再燃がんにたいする抗がん化学療法、11C-acetate PETを用いたがん局在診断の向上を目指した研究を開始し、その有用性について多くの報告を行ってきた。PETを用いたがん局在診断では、前立腺がんばかりでなく嚢胞性腎がんの診断にも科学研究費が採択され、臨床研究が開始された。下部尿路機能障害は高齢化社会の到来に伴って近年、特に注目されている。高齢者に多い脳血管障害や前立腺肥大症、さらには脊髄疾患に伴う過活動膀胱に焦点を当てて神経生理学的、分子薬理学的研究を行なっている。この領域は製薬企業との共同研究が盛んで、薬剤作用機序の解明、新たなる疾患モデルの開発など積極的な取り組みを行っている。したがって文部科学省研究費ばかりでなく、民間企業から受託研究・共同研究の要請も多く産学連携として広く展開している。中でも難治性疾患である間質性膀胱炎の病態を明らかにする目的でモデルの作成に期待がかかる。性機能障害は、ED外来・男性更年期障害外来として多くの患者様を集めている。QOL疾患の代表とも言える性機能障害を、質問票を用いた疫学調査のみならず、社会的ストレスとの関連で基礎的研究も始めており、国内外の学会で注目されている。

青木先生学会賞受賞

分化抑制遺伝子Id2欠損マウスにみられる水腎症のメカニズムについての基礎的研究で、当講座青木芳隆が2006年第13回社団法人日本泌尿器科学会学会賞(基礎的研究部門)を受賞した。この賞は日本泌尿器科学会で一番名誉な賞であり、今後の研究発展が期待される。また、2008年第21回日本老年泌尿器科学会においても「女性の夜間頻尿~加齢以外の危険因子について~」というタイトルで学会賞を受賞した。

以下に個々の研究内容を示す。

尿路悪性腫瘍部門

a.腎がん

文部科学省研究費を受けて11C-acetate PETによる嚢胞性腎がんの診断に関する研究を行っている。腎がんのうちでも嚢胞型のものは良性疾患との鑑別が難しい。がん細胞に比較的選択的に取り込まれる11C-acetateを利用し診断精度を向上させることを目的としている

b.腎盂尿管がん・膀胱がん

再発膀胱がんに対するBCG膀胱内注入療法は副作用が強く、継続困難症例も多い。本年度より臨床研究としてゲムシタビンを用いた膀胱内注入療法を開始した。本剤はBCGより自他覚的副作用は少なく、かつBCG と同等またはそれ以上の抗腫瘍効果が期待されている。

c.前立腺がん

文部科学省研究費やCOE若手奨励研究費を受け、また高エネルギー医学研究センターとの共同研究で、11C-acetate PET を用いた前立腺がんに対する根治療法後、PSA上昇時の再発病変の局在診断における有用性について研究している。再燃初期にもその部位を同定できる可能性がある。また、従来のRIスキャンによる骨転移部位診断の精度を高める目的で、18F-fluoride PETを用いた新規検査を始めた。18F-fluoride PETでは解像度の高い画像が得られるため、骨シンチでは偽陰性となりやすい微小骨転移病変を検出できる可能性が期待される。基礎研究では、米国ワシントン大学との共同研究として、18F-fluorothymidine (FLT)を用いたホルモン抵抗性前立腺がんに対する抗がん剤の抗腫瘍効果のモニター法開発を、前立腺がん培養細胞や動物モデルを使って研究して多くの報告を行った。また、前立腺がん細胞に対する新しいモノクローナル抗体を用いたPET画像診断の基礎的検討について東北大学泌尿器科グループとの共同研究として開始した。平成18年度から限局性前立腺がんに対する小線源治療(ブラキセラピー)を開始した。平成22年春には150症例を越え、北陸地区最多の治療実績となっている。

腎臓部門

臨床的には、福井県下唯一の献腎移植実施機関として常時移植に備えている。分子遺伝子学教室との共同研究として分化抑制遺伝子Id2欠損マウスにみられる水腎症のメカニズムについて病理学的、分子生物学的検討を行ない、また臨床例における遺伝子解析を行った。

下部尿路機能部門

a.脳梗塞に伴う過活動膀胱の発生メカニズムに関する基礎的研究

脳梗塞に伴う過活動膀胱の発生メカニズムとして、脳幹部プロスタグランジン(PGE2)の増加が神経回路を再構築し排尿閾値を低い方へシフトさせている可能性がある。PGE2を中心に薬理学実験を行いPGの下部尿路機能への影響について報告した。

また過活動膀胱を認める脳梗塞ラットを薬剤のモニターとして用い、これまでの頻尿・尿失禁治療薬や新規薬剤の有効性の予想、作用メカニズムについて膀胱知覚神経(c-fiber)を中心に多くの報告を行なった。

b.夜間頻尿に関する臨床的基礎的研究

夜間頻尿の原因として睡眠障害、夜間多尿は大きな比重を占める。睡眠障害ラットを作成し尿産生の日内リズムを測定して、睡眠と脳ADH、ANP/BNPなどの内分泌学的変動について検討した。睡眠薬が排尿反射にどのように影響するのか、尿産生に関与するのか、これらについても動物実験の結果をふまえ報告した。また、前立腺検診や地域住民健康診査の結果から、夜間頻尿と肥満・痩せについての疫学調査の結果を解析した。

c.前立腺肥大症の成因と治療に関する研究

前立腺肥大症にみられる尿意切迫感などの過活動膀胱をα(アルファ)1ブロッカーは改善する。そのメカニズムを解明する目的で、ラットの尿道内をPGE2で還流し、尿道刺激に起因する過活動膀胱モデルを作成した。α(アルファ)1ブロッカーは尿道に起因するC線維を介した求心性入力を抑制し蓄尿期を延長することが解明された。英国シェフィールド大学との間で前立腺のカリウムチャンネルについて共同研究を行っており、新たなる治療法の開発に貢献するものと期待される。

d.間質性膀胱炎の病態解明に関する基礎的研究

原因不明、難治性疾患である間質性膀胱炎の病態解明を目的としてまずその第一段階としてのモデル動物作成にとりかかった。浸透圧ポンプを用いプロタミン持続膀胱内注入が著明な排尿反射促進を引き起こす事が解明された。このモデルの膀胱壁ではPGE2の増加とともに、肥満細胞の増加が観察された。このモデル開発については製薬企業との共同研究を展開している。

e.内分泌環境と蓄尿障害に関する臨床的基礎的研究

高齢者にみられる蓄尿障害が、加齢に伴う内分泌環境の変化とどのように関連しているのかを研究する目的で、外来患者様対象に質問票と採血を行った。その結果蓄尿障害とDHEAの値には強い相関が存在することが解明された。DHEAを欠損させた動物モデルにDHEAを補充すると膀胱容量の増大がみられ副腎アンドロゲンの下部尿路機能への関与が示唆された。

性機能部門

a.男性更年期障害

ED外来と共に男性更年期障害外来を常設し、男性ホルモン分泌低下に伴う種々の症状に総合的に対処している。特にテストステロンより副腎性アンドロゲンであるDHEAの方が加齢に伴う種々の症状に相関していることが解明された。

b

基礎研究としては社会的ストレスに起因する性行動障害のモデルを使い、内分泌環境の変化がどのように性機能に影響しているかを検討している。副腎性アンドロゲンであるDHEAが性機能と強く相関し、この補充が性機能を向上させる可能性がある。

平成22年度は公的研究費として文部科学省研究費の基盤研究B(継続、研究代表者:横山)、基盤研究C(継続、研究代表者:大山、三輪、青木、伊藤)、基盤研究C(新規、研究代表者:石田)、挑戦的萌芽研究(継続、研究代表者:横山、棚瀬)、若手B(新規、研究代表者:松田)と全部で9件の採択を受けた。この他、製薬企業との受託研究、共同研究も数多く行っている。

今後の展望

大学の独立行政法人化にともない、地域への貢献が今後一層重要視される。地域住民や他施設の医療関係者から信頼される医療教育研究機関として評価されるよう、当講座もその一員としての役割を果たしていきたいと考える。また世界へ向けての情報発信源になるよう基礎研究にもさらに力を入れて行きたい。

泌尿器科学研究室

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