福井大学医学部

内科学(3)

研究内容紹介

当教室に関する最新の情報は「第三内科の管理するホームページ」をご覧ください。
http://www.med.u-fukui.ac.jp/NAIKA3/

主要研究テーマ

呼吸器グループ

1. 18F-FDG PETの呼吸器疾患診断への臨床応用

当科では、本学高エネルギー医学研究センターと共同し、PET画像の呼吸器疾患への応用研究を多く行ってきている。
18F-FDG PETは現在癌診療において頻用されているが、近年炎症性疾患においても集積することが報告されている。良性疾患では1時間でFDG集積が最大となり以降不変か減少することが報告されていたが、我々は間質性肺炎やサルコイドーシスなどの炎症性疾患では、病勢の強い部分では1時間後より3時間後で集積が亢進することを報告してきた(Umeda Y, et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2009, Umeda Y, et al. Respirology. 2011)。さらに、間質性肺炎の中でも予後不良な特発性肺線維症の生命予後評価におけるDual-time-point 18F-FDG PET画像の有用性を報告した(Umeda Y, et al. J Nucl Med. 2015)。
現在、我々の教室では間質性肺炎のうち治療反応性の一定でない特発性肺線維症や非特異性間質性肺炎に対し、抗線維化薬やステロイド剤などの治療前後にDual-time-point 18F-FDG PET を行い、治療前後での変化率とその後の長期治療効果に関する検討を行っている。

2. 新しいトレーサーを用いたPETによる肺癌診断への応用

腫瘍診断において一般的に用いられている18F-FDGに加え、いくつかの新しいトレーサーを用いた検査法の開発を本学の高エネルギー医学研究センター(高エネ研)と共同で行っている。
3’-deoxy-3’-18F-fluoro-thymidine (18F-FLT)はThymidineのanalogueでありThymidine kinese-1によりリン酸化されて細胞内に取り込まれるがDNAには組み込まれない。肺癌を含むいくつかの癌腫において、18F-FLTの集積度と細胞増殖を示すKi67陽性細胞の割合が相関することが報告されており細胞増殖のマーカーとして考えられている。現在、我々は非小細胞肺癌において18F-FDGと18F-FLT集積度やその分布と病理学的な特徴、全身化学療法の治療効果、生命予後との関連の検討を行っている。

3. FDG-PET/MRIの呼吸器疾患診療への臨床応用

胸部病変の診断に対するMRIの有用性は、近年、拡散強調画像やSTIR像などの撮像シークエンスの改良によりその有用性は高まっている。当グループでもMRIを肺癌診療に取り入れ、臨床的研究を継続している。
2015年に本学高エネルギー医学研究センターに本邦5台目の統合型PET/MRI装置が導入されている。当科では2015年末に保険適応が非小細胞肺癌に追加されたPD-1抗体の効果をFDG-PET/MRIを用いて評価する研究を進めており症例集積中である。また、肺癌の縦隔リンパ節転移に対する診断の向上を目的としたPET/MRI画像の応用研究を開始予定している。

4. 仮想気管支鏡と極細径気管支鏡およびガイドシース気管支腔内超音波断層法の有用性の検討

当院では仮想気管支鏡(VBN: Virtual Bronchoscopic Navigation)システム、極細径気管支鏡、ガイドシース気管支腔内超音波断層法(EBUS-GS)システム、超音波気管支鏡ガイド下針生検システム(EBUS-TBNA)、等を導入し、それら新しいデバイスの有用性を検討している。
また、近年発達してきたEBUS-GS法やVBNを使用しても診断困難な末梢型肺癌は存在する。EBUS-GS法はデバイスが病変内に到達したことを確認する優れた方法であるが、気管支内腔に腫瘍が進展していない場合診断率が低下することが予想される。そこで、気管支鏡検査前に行われたCTやPET画像などをもとに診断率を予測する因子を評価し報告した(Umeda Y, et al. Lung Cancer. 2014)。現在も、EBUS-GS法による末梢病変診断、EBUS-TBNAによるリンパ節転移診断に関わる因子の評価を前向きに症例集積し検討している。

5. 細胞外酸性の気道炎症へ及ぼす影響に関する研究

細胞外酸性の慢性気道炎症へ及ぼす影響に関して細胞レベルでの機能解析を行っている。血液の酸塩基平衡は厳格にpH 7.35~7.45に保たれているが、気道炎症巣では細胞外環境が酸性へ傾くことが知られており、気管支喘息患者の気道炎症局所ではpH が5.2まで低下することが報告されている。酸を感知するメカニズムとして知覚神経に存在するカプサイシン感受性TRPV1イオンチャンネル型受容体やASIC (acid-sensing ion channel: 酸感受性イオンチャンネル) が知られていた。近年、脂質をリガンドとすると推定されていた三量体G蛋白質共役型受容体(GPCR)が細胞外のプロトン(H+) を感知し、活性化することが明らかにされてきた。現在までにプロトン感知性受容体としてOvarian cancer G-protein-coupled receptor 1 (OGR1)、GPR4、T cell death-associated gene 8 (TDAG8)、G2Aの4種類の受容体が同定されている。 私たちは群馬大学生体調節研究所 岡島史和教授と共同研究を進め、OGR1ノックアウトマウスの卵白アルブミン (OVA) 感作による喘息モデルを解析した結果、野生型と比較してノックアウトマウスでは気道過敏性亢進、気道上皮の杯細胞化が減弱すること、気管支肺胞洗浄液中の好酸球数、Th2サイトカインの低下が観察されることを明らかにした。一方で、気道構成細胞であるヒト気管支平滑筋細胞やヒト気道上皮細胞では4種類のプロトン感知性受容体のうちOGR1が主に発現しており、気管支平滑筋細胞では細胞外環境が酸性に傾くとプロトン刺激によってOGR1が活性化し、IL-6やCTGF(connective tissue growth factor)が産生されることを発見した。これらの結果から、気管支喘息、COPDなどの炎症性呼吸器疾患において、気管支平滑筋は外界からの刺激によって、収縮、拡張し、気流制限に関与するだけではなく、OGR1を介して、細胞外プロトンを感知し、気道炎症や気道リモデリングに関与しているものと思われる。
現在、私たちのグループでは気道上皮細胞や気管支平滑筋細胞から細胞外酸性によって誘導される新たな因子を探索し、気道分泌との関連について研究を進めている。

6. マスト細胞に関する研究

マスト細胞はIgEを介するアレルギー性気道炎症における中心的な役割を果たす細胞であり、酸化ストレスのロイコトリエン産生に対する促進効果、抗原へ向かうマスト細胞の遊走作用、IgEを介するサイトカイン産生に関与する細胞内シグナル伝達因子に関する研究を進めてきた。現在、大学院生の本定は福井大学医学部ゲノム科学・微生物学領域の定 清直 教授、千原一泰 准教授のご指導の下、自然免疫受容体のマスト細胞における機能についてSykチロシンキナーゼとの関連を中心に研究を進めている。

7. 急性肺障害・肺循環・肺循環障害の研究

石﨑武志教授と歴代の大学院生、飴嶋講師を中心に急性肺障害・肺循環・肺循環障害の研究を展開してきた。
動物肺組織・細胞実験;ARDS惹起物質の1つと目されたリノール酸エポキシド(Leukotoxin、Lx)の病態生理作用を名古屋大生化学教室と連携して、約10年を費やして解析した。Lxの肺血管NOS活性化、活性酸素産生亢進、および、好中球活性化作用を明らかにした。
低酸素性肺血管収縮の複雑な分子レベルの関与を明らかにし、低酸素時の肺胞上皮細胞や肺動脈血管平滑筋細胞反応を分子生物学的手法を用いてcyclin-dependent kinase(CDK)に焦点を当てて検討し、NOやPGI2、Rho-kinaseの作用がCDKの動きと密接な関係を形成することも明らかとなった。
野外実験 ; 低酸素環境の高地生息動物のチベット羊やヤクがなぜ低酸素性肺高血圧症にならないのかを中国とキルギスタンの天山山脈へ赴いて検討した。結果は肺NOS活性のアプレギュレーションと内因性NOインヒビター(ADMA)産生抑制や肺Rho-kinase活性の抑制機序を獲得して適応していると判明した。実験室研究とフィールド研究を通して低酸素性肺高血圧症治療手段の手掛かりが得られるものと期待する。なお、これらの主な研究成果は本学大学院生の研究であり、米国コロラド大CVP研究所、青海省高原医科学研究所、信州大学加齢適応研究所、キルギス国立循環器病センター分子生物部門などとの共同研究のたまものでもある。

8. その他の臨床研究

気管支喘息、COPDなどの慢性呼吸器疾患に対する各種薬剤・早期診断治療・患者教育の介入による治療成績・QOLの向上についての臨床研究を行っている。また、金沢大学と共同で黄砂の喘息症状への影響を調査中である。肺癌領域では、治療歴を有する非小細胞肺癌に対する second line治療に関する医師主導型臨床試験を進めている。さらに、肺癌の多施設共同臨床試験にも積極的に参加している。

内分泌・代謝グループ

1. レニン-アンジオテンシン系遺伝子転写調節と細胞内シグナル伝達

レニン-アンジオテンシン系遺伝子のクローニングやACE遺伝子多型の発見と応用など、当該分野の国際的な第一人者であるフランス国立医学研究所College de FranceのCorvol教授を中心としたグループとの共同研究を通じ、ヒトレニン遺伝子転写調節機序解析による知見など、Kidney Int, Biochem J, J Cell Biochem 等7本のfull paperを発表した。これらの知見に基づき、発展的な研究を展開している。その成績はJ Hypertens 2010, Curr Hypertens Rep 2011, Int J Cardiol 2013, Medicine 2014, PLoS One 2015等に掲載された。

2. 網羅的遺伝子解析に基づいた高血圧/糖尿病関連遺伝子のトランスレーショナルリサーチ

ポストミレニアムプロジェクトである「ゲノム情報を活用した糖尿病の先駆的診断・治療法の開発研究」(独立行政法人医薬基盤研究所 保健医療分野における基礎研究推進事業研究プロジェクト、総括国立国際医療センター加藤規弘部長)に参加し、組織遺伝子発現の評価やゲノム薬理学としてのARBの効果を解析した。またDNAチップを用いた網羅的トランスクリプトーム解析から、糖尿病/高血圧を識別しうる比較的明確なクラスターを得て、オントロジー解析、パスウエイ解析からangiotensin II消去系全般の発現低下が示唆され、real-time PCR法での解析を完了した。この高血圧糖尿病関連遺伝子について可溶部分に対し抗体を設定し測定系を構築した(文部科学省科学研究費補助金 基盤研究)。これらの成果はEndocrinology 2007, Diabetes Care 2007, 2009等に掲載された。

3. 遺伝的体質に基づいたテーラーメイド医療

ゲノムコホート研究の多施設共同研究体制(G-DOC Study、UMIN-CTR 第1,580号)を整え、遺伝的体質(遺伝子多型)と心筋梗塞、脳卒中、透析導入等各種臓器寿命、生命寿命を解析している。最近では、1,000例規模のCKDにおいて、レニン-アンジオテンシン系の主要遺伝子型とハードエンドポイントとしての腎死の関係を解析しレニン遺伝子で累積腎生存率に有意な差異があるという成績を得ている。これらの成績によりAm J Kid Dis等8本のfull paperを発表した。特に近年では糖尿病の発症にアルドステロン合成酵素遺伝子が関与する成績も得られ、Acta Diabetol 2014に掲載された。

4. 子癇前症の早期診断に関連する諸因子に及ぼすHIV感染の影響

日本学術振興会二国間交流事業協同研究「子癇前症(妊娠高血圧腎症)の早期診断に関連する諸因子に及ぼすHIV感染の影響」(科学技術振興機構 戦略的国際科学技術協力推進事業)を南アフリカ共和国のクワズルナタール大学と実施し約600例の解析を完了した。

5. “脂肪心筋”の発症機序に関する研究

肥満症や糖尿病患者の心筋は細胞内に脂肪滴が蓄積する“脂肪心筋”となり易く、これが様々な心機能障害をきたす。しかしながらその詳細なメカニズムは解明されていない。我々は脂肪滴表面に局在するタンパクであるPerilipin(Plin)ファミリーや代謝制御転写因子PPAR-α、C/EBP-βに着目し、それらの過剰発現/欠損マウスを用いて脂肪毒性が心筋障害を発生する病態生理を解析している。特に近年は、Plin2による脂肪蓄積が心房細動を誘発することを発見し、そのメカニズムに関する研究を進めている。本研究より脂肪心筋が心筋障害をきたすメカニズムを解明し、その予防法、治療法の確立に貢献したい。

6. 心臓のケトン代謝と機能異常に関する研究

ヒトの心臓は1日およそ7トンの血液を循環させるポンプの役割を果たしており、そのために必要なエネルギーの多くがミトコンドリア内で行われた脂肪酸のβ酸化により作り出されたATPである。このエネルギー代謝が障害されると機能異常を引き起こすことが知られている。ケトン体は絶食時などで血中に増加する物質で、心臓でエネルギーとして利用される。現在HMGCS2というケトン体を合成する律速酵素の過剰発現モデルを作成しケトン代謝や心機能に与える影響を検討している。今後の研究の成果によりエネルギー代謝の面からの心機能異常の病態解明や治療方法の開発につながることを期待している。

7. 糖尿病管理に関する臨床研究

糖尿病に伴う血管障害の抑制には食後高血糖の管理が重要である。我々は糖尿病患者における血糖値の正常化を目指した臨床研究を遂行している。近年内分泌代謝内科に入院し、インスリン治療を行った患者のサーベイの結果、一見コントロール良好に見える患者の約8割が食後1時間の血糖管理が不十分なことが判明した。現在、食後血糖値の管理と血管合併症の効果的な抑制法について探索している。また、近年、話題となっているインクレチン関連薬を使用し、血糖変動に与える影響について臨床研究を行っている。さらに、持続血糖モニタリングシステムを応用した新たな糖尿病管理を模索している。

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