福井大学医学部

地域プライマリケア講座

研究内容紹介

地域に還元でき、地域の発展に繋がるテーマでの研究を推進しています。

主要研究テーマ

ソーシャル・キャピタルの醸成と健康アウトカムの向上を目指した地域参加型の活動

地域のつながりや支え合いは、「ソーシャル・キャピタル」という言葉で表されます。ソーシャル・キャピタルの健康への好影響は、平均寿命や健康寿命の延伸、主観的健康感の向上、認知症リスクの低減など、さまざまな研究で明らかとなっています。一方、Community-Based Participatory Research(地域社会参加型研究、CBPR:地域の人々が抱えている問題を解決するための介入に、生活者・住民が参加して、専門家と協力しながら行う取り組み)もまた、近年注目されています。
本研究では、地域のつながりや支え合いなどの「ソーシャル・キャピタル」を、地域主体的な取り組み(CBPR)のニュアンスを存分に取り入れながら向上させていくことを目指した介入研究です。
具体的には、「けっこう健康!高浜☆わいわいカフェ」(通称「健高カフェ」※1)や、「健康マイスター養成塾」(※2)などを通じて、ソーシャル・キャピタルの醸成を図り、その活動の効果を高齢者悉皆追跡調査により、社会疫学的に明らかにすることを目指します。また、独居高齢者に着目した、つながりの要因を明らかにする調査も実施しています。

※1:健高カフェ
あらゆる分野(ヘルスケアだけでなく、まちづくり、教育、商工観光等なんでも)のあらゆる立場の者(住民、行政、専門職)が、月1回まちなかのコミュニティスペースに自由に集まり、参加者提案のテーマについて、誰にどんなことができそうかをざっくばらんに喋り、出た意見を各自が持ち帰って無理なく実現可能な範囲で実行する取り組み。今までに30近くの取り組みが実現したり、協議に入ったりしています。健高カフェの場で、人と人、団体と団体が出会い、交わり、絆を深めているだけでなく、健高カフェ発案で実現するさまざまな取り組みにより、地域において社会参加や交流の機会が増加しており、地域のソーシャル・キャピタル が醸成されています。また、話の題材とするテーマは地域の参加者由来であり、それを皆で議論し、皆で実行し、評価までを行っており、まさに地域社会参加型研究 の手法を取り入れたものとなっています。

※2:健康マイスター養成塾
医療機関にかかるまででもないが、日常の健康面の不安や困惑を生活の中で解決に導くような仕組みがまだ本邦では多くありません。高浜町では、町内の専門職に講師を依頼し、認知症、季節の病気、生活習慣病、こころの病気など、多岐にわたる町民対象の健康の連続講座を企画、運営しています。修了生を「健康マイスター」に認定し、生活と医療・介護を結び付ける自主的な活動を促進させています。

<H27-28文部科学省科学研究費補助金若手B、H29-31文部科学省科学研究費補助金基盤C採択課題>

医療―介護―住民―行政の連携を育む「コラボ☆ラボ」の全国展開とその効果の検討

高浜町では幸い、住民、行政、専門職(医療、介護)が協働して地域の健康課題に取り組めていますが、全国的にはまだまだ協働が十分でない地域も多いです。市民―行政―医療―介護の4者が協働するきっかけづくりとして最適なワークショップを、ワールドカフェ×ロジカルシンキングによる新しいワークショップの手法「コラボ☆ラボ」として開発し、開催希望のあった自治体に出向いて開催しています。さらに、参加者からファシリテータのボランティアを募集しており、「コラボ☆ラボ☆ボランタリー」を結成、「コラボ☆ラボ」開催希望地域があれば、ボランティアで全国各地からファシリテータが集結し、発展的な地域交流と地域協働を展開しています。

<H26杉浦地域医療振興助成採択課題>

安心・満足・信頼の地域医療・地域福祉の創造における主体的住民参画の効果の検討

近年、医師不足や診療科閉鎖などの地域医療問題や、社会的入院などの地域福祉問題が日本全国で頻発しており、地域の安全・安心を支える医療および福祉の十分な機能確保が大きな課題となっています。福井県の最西端に位置する高浜町も例外ではなく、町内で勤務する医師数は最盛期の半数となり、医療機能も縮小、社会的入院も増加し、結果住民の信頼をなくす事態となりました。
町長や町議会の危機感は強まっており、福井大学医学部への寄附講座の設置や、保健課内への地域医療推進室の設置、地域医療推進合同会議の開催などの対策を講じています。また当講座でも、町内および近隣市町村の医療・福祉機能を効率的に発揮させ温存していくために、町の広報誌での連載、地域医療フォーラムの開催、在宅福祉の広報などの方法で、住民啓発活動を積極的に行っています。医療者や行政が住民に情報発信することは必要ですが、いくら行政や医療者が奮闘していても、地域医療・地域福祉の主役である住民が町の医療に目を向け、正しく理解し、町の医療や福祉を守るための行動変容を起こさなければ、理想の地域医療・地域福祉は実現しません。住民が住民を啓発するなど、当事者意識を持った住民の主体的な行動こそ、効果的に住民の理解向上・意識変革を可能にし、地域医療・地域福祉の諸問題を根底から解決する唯一の手段だと言えます。
本研究では、平成21年7月に行われた第1回高浜町地域医療フォーラムでの呼びかけに応じ、高浜の医療・福祉のために立ち上がった26名の住民有志の活動の開始および継続を、医療者/学識経験者の立場から技術的/金銭的に援助し、その効果を講座の立場から調査・分析し、福井県、全国へと通用する地域医療・福祉システム向上モデルを構築し、医療・福祉の安全安心から地域の安全安心に寄与することを目的としています。

<H22-23/H24-25福井県大学連携リーグ連携研究推進事業補助金採択課題>

特徴的な地域の住民の理想とする医療に関する探索的研究

近年、地方を中心に医師不足やたらい回しなど、いわゆる“医療崩壊”という言葉に集約される問題が噴出しています。地域により問題は異なりますが、そもそも地域医療とは「地域住民が抱えるさまざまな健康上の不安や悩みをしっかりと受け止め、適切に対応するとともに、広く住民の生活にも心を配り、安心して暮らすことができるよう、見守り、支える医療」であり、地域医療の主役は地域住民ですから、問題の解決のためには、医療者や行政が奮闘するだけではなく、住民が主体的に参画し、理想とする医療のイメージを表出したり現状の医療を評価したりする必要があると言えます。特徴的な地域(都心や地方都市、山村・漁村、離島など)でどのような認識の共通点や相違点があるかを明らかにすることは、理想の医療の実現を目指して活動するすべての医療者や行政にとって、活動方針を正しい方向に導いてくれる非常に意義深いものと考えられます。
本研究は、特徴的な地域で暮らす住民が、どのような医療を「理想の医療」と感じるのかをテーマに、各地域での共通点や相違点を明らかにすることを目的としています。地域住民にとっての理想の医療を示すだけでなく、どのような地域でどのような医療が理想とされるかを明らかにすることで、全国各地でそれぞれ行われるであろう今後の医療再生活動における方針や目標に考慮いただき、全国的な地域医療問題の解決に寄与すると考えています。

<H23-24文部科学省科学研究費補助金若手B採択課題>

在宅療養中の患者における口腔ケアおよび発熱に関する調査

日本の高齢化率は22%を超え、日本は世界的にも高齢化先進国です。高齢者の死因の30%は肺炎であり、その30%は誤嚥性肺炎であると言われています。それを防ぐ方法の確立が日本で求められるのは言うまでもないことです。
在宅療養中の患者が望むのは在宅での安全と安心であり、在宅療養中にでも同様の効果が立証されるなら、安全・安心の確保に大きく寄与できる可能性があります。また、主介護者がどのような要素で口腔ケアを遵守できないかを検証することは、患者本人だけでなく介護者の負担軽減や安心にもつながると考えられます。
本研究は、在宅療養中の患者における口腔ケアの発熱予防効果を検証すること、および主介護者による口腔ケア遵守の阻害要因を検証することを目的としています。口腔ケアの有用性を示すだけでなく、口腔ケアを継続できない要因を割り出し、今後のケア遵守率の向上につなげたいと思います。

<H23公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団在宅医療助成採択課題>

地域プライマリケア講座研究室

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