福井大学医学部

脳神経外科学

当科で行っている手術の特徴(脳腫瘍編)

脳腫瘍について

脳腫瘍は脳から発生する原発性脳腫瘍と全身の癌から転移してくるもの(転移性脳腫瘍)があります。原発性脳腫瘍は10万人あたり1年間で10-12人の発生率であり、福井県で換算すると1年間で80-90人程度の新規の患者さんが発生することになります。福井大学附属病院では、おおよそその半数を治療しています(2015年、脳腫瘍手術62件:含む重複、脊髄腫瘍、日本脳神経外科学会報告資料)

転移性脳腫瘍

転移性脳腫瘍は原発巣(胃や大腸、腎臓など初発の部位)の治療成績が向上したため増加しています。脳への転移でも抗がん剤や特殊な放射線療法(病巣に集中的に放射線を照射する定位放射線療法)で上手くコントロールされるようになりました。転移が大きく手術で摘出した方が神経症状が軽減し、生命予後がよいと判断した場合は積極的に摘出します。手術室内に設置したCTで確実な摘出を達成しています。手術室CTの稼働は本邦で有数(おそらく日本一)の症例数です。手術中に手足の運動神経の電気的な活動を観察しながら摘出(術中電気生理学的検査)を行っています。

原発性脳腫瘍

原発性脳腫瘍で多いものはグリオーマ(神経膠腫)です。グリオーマは脳や脊髄のあらゆる部位より発生します。病巣の場所もいろいろですが、種類も多数あります。 遺伝子検査を含めた正確な組織診断を得ること、それに基づく科学的根拠のある治療法を選択することが大切です。脳は重要な機能を持っていますので、腫瘍摘出の際に出来るだけ保護する必要があります。腫瘍細胞を最大限取り除くこと、そこにある正常神経細胞は残すこと、これはなかなか難しい問題です。この相反する問題を解決するために世界中の脳腫瘍外科医が頭を悩ませてきました。

福井大学では以下の方法が実現できます。

  1. 手術中に専門の病理医が摘出した組織を検査し診断を行うので、腫瘍の摘出範囲や摘出腔への薬剤塗布など、術中によりよい治療方法の選択ができます。
  2. 腫瘍細胞内に蛍光物質を取り込ませ特殊な光線で光らせることにより正常脳に隠れた腫瘍組織を見つけ出します。
  3. 5ALA 光線力学的診断、論文2

  4. 術中CTで確実な腫瘍と合併症の超早期の発見。
  5. 先進的なナビゲーターを用いた手術範囲の明示化。術中CTとナビゲーターが相互に手術前情報、術中画像情報を統合して手術室内に情報を与えます。
  6. 術中電気生理学的検査で麻痺、感覚障害、視力障害の回避。麻酔中でも神経活動が測定できます。運動神経近くの腫瘍を摘出するときは運動神経を刺激して手足が動くことを確認し、麻痺が残らないように摘出を行います。
  7. 言葉を守るための覚醒下手術。言葉や複雑な判断能力を手術後に守るためには、麻酔を覚まして言葉をしゃべりながら摘出を行います。脳は痛みを感じませんので皮膚を十分に麻酔すれば痛みがなくこのような治療が可能です。

福井大学の脳腫瘍手術では、形態を元にしたモニター、機能を維持するモニターを駆使して達成度の高い安全な手術に心掛けています。

術後補助療法は放射線治療部、化学療法部と協働し治療を継続しています。

膠芽腫はグリオーマの中でもっとも多く悪性度の高いものです。当院での最近10年間の膠芽腫の治療成績は以下の通りで(表:1年生存率 68.0%、2年生存率32.2 %で、米国や日本全体の脳腫瘍統計でのデータ(1年生存率 60.3%、2年生存率 25.4%、日本脳腫瘍統計13版2014年)よりもよい結果です。しかしながら、まだまだ満足いく結果ではありませんので、治癒を目指した治療の開発を行っています。

論文

  1. 第二世代の脳神経外科手術室CT導入-1号機17年の運用から得たノウハウ. 北井隆平他、CI研究、2016
  2. 5-ALA蛍光陽性と視認できる悪性神経膠腫、腫瘍細胞密度の検討-培養細胞での実験と臨床例との対比. 北井隆平他、脳神経外科、2014

福井大学 脳脊髄神経外科 北井隆平

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