福井大学医学部

分子病理学(病理学2)

研究内容紹介

われわれはこれまでに、独自に開発した分光蛍光定量法および反応速度論的実験系を駆使し、アルツハイマー病患者脳に認められるAβアミロイドーシス、及び長期血液透析患者に発症するβ2-ミクログロブリンアミロイドーシスなどをモデル疾患に選び、アミロイド線維形成過程を説明する重合核依存性重合モデルを構築、様々な生体分子および有機化合物の線維形成過程に及ぼす影響を解析して来ました。天然構造のアミロイド前駆蛋白質は、血中あるいは沈着局所に存在する様々な生体分子と相互作用します。その結果異常構造を獲得してアミロイド線維を形成、組織に沈着します。形成したアミロイド線維表面にも様々な生体分子が結合し、線維構造を安定化することによりアミロイド線維沈着を促進します。一方、線維形成の各過程を阻害する生体分子群(細胞外分子シャペロン)も存在します。われわれの研究により、アミロイドーシス発症機構に対する新たなモデルの確立、及び治療戦略の構築が期待できます。
一方、平成20~22年度文部科学省特別経費「統合的先進イメージングシステムによる革新的医学教育の展開」により病理解剖棟を改修し、国内初となるオートプシー・イメージング (Ai) 専用のCT、MRを設置すると共に、Aiに必要なネットワーク・サーバーシステムを完成させました。平成23年5月から医学部附属先進イメージング教育研究センターが発足し、同センターオートプシー・イメージング部門で本格的Ai事業がスタート、客観的遺体画像診断学の確立を目指しています。
さらに、感染病巣局在部位の客観的診断法の開発も行っており、本学医学部で独自に合成したトレーサーを用いて感染病巣を特異的にPET撮影することに成功しました。尿酸結晶を利用した多発性骨髄腫に対するがん免疫療法の開発や、乳癌の転移・浸潤におけるアデノシン代謝酵素の意義に関する研究も行っています。

主要研究テーマ

ヒトアミロイドーシス発症の分子機構解明

アミロイドーシスの本態は、アミロイド線維の形成とその組織への沈着です。従って、アミロイド線維形成の分子機構を試験管内で詳細に解析することは、アミロイドーシス発症の分子機構を解明するために不可欠の研究手段と言えます。われわれはこれまでに、独自に開発した分光蛍光定量法および反応速度論的実験系を駆使し、アルツハイマー病患者脳に認められるAβアミロイドーシス、及び長期血液透析患者に発症するβ2-ミクログロブリン(β2-m)アミロイドーシスをモデル疾患に選び、アミロイド線維形成過程を説明する重合核依存性重合モデルを構築、様々な生体分子および有機化合物の線維形成過程に及ぼす影響を解析して来ました。過去10年以上にわたる独自の系統的研究に基づき、われわれは現在、図に示す作業モデルを構築しています (Naiki & Nagai, J. Biochem. 146:751-6, 2009)。天然構造のアミロイド前駆蛋白質は、血中、あるいは沈着局所に存在する様々な生体分子と相互作用します。その結果異常構造を獲得し、重合核依存性重合モデルに従いアミロイド線維を形成、組織に沈着します。形成したアミロイド線維表面にも様々な生体分子が結合し、線維構造を安定化することによりアミロイド線維沈着を促進します。一方、線維形成の各過程を阻害する生体分子群(細胞外分子シャペロン)も存在します。最近われわれは、代表的細胞外分子シャペロンであるα2-マクログロブリン(α2M)の、変性β2-m認識および凝集抑制機構に迫りました (Ozawa et al. J. Biol. Chem. 286:9668-76, 2011)。その結果、蛋白質が変性し凝集しやすい環境下では、α2Mは自ら変性蛋白質と相互作用するために有利な構造、つまりダイマー化し疎水性領域をより露出した構造に変化することで、疎水性相互作用により変性β2-mとの親和性を高め、凝集を抑制することを明らかにしました。

今後われわれは上記研究をさらに発展させ、① 種々の生体分子がアミロイド線維形成を促進・阻害する分子機構を、複雑な生体分子間相互作用の精密な解析を通して疾病発症機構(医学)の観点から明らかにすること、及び ② アミロイド線維の組織障害機構を細胞・組織レベルで明らかにすることを目指します。われわれの研究によりアミロイドーシス発症機構に対する新たなモデルの確立、及び治療戦略の構築が期待できます。

病理解剖を基礎とした遺体画像診断学の構築

画像撮影の発展がCT、MRIに代表されるハード開発とコンピュータ技術による分析ソフトの進化に基づくことは言うまでもありませんが、診断技術は画像情報と膨大な病理解剖(剖検)材料・外科材料との対比による客観性を担保に向上してきました。近年、画像診断は来院時心肺停止患者などの原因診断に威力を発揮することも多く、生体のみならず死亡患者にも画像診断を行う有用性が提唱され、本邦でも遺体の死因究明に画像診断を応用するオートプシー・イメージング(Ai)が急速に普及してきています。しかし、生体における画像情報の蓄積に比べ遺体画像情報は未だ乏しく、病態解析や死因究明に繋がる正確な画像診断は必ずしも可能となっていないのが現状です。

本学医学部では、平成20~22年度文部科学省特別経費「統合的先進イメージングシステムによる革新的医学教育の展開」(事業代表者:内木宏延)により病理解剖棟を改修し、国内初となるAi専用のCT、MRを設置すると共に、Aiに必要なネットワーク・サーバーシステムを完成させました。平成23年5月から医学部附属先進イメージング教育研究センター(内木宏延センター長)が発足し、同センターオートプシー・イメージング部門(通称Aiセンター)で本格的Ai事業がスタート、客観的遺体画像診断学の確立を目指すプロジェクトが立ち上がりました。

具体的には、Ai撮影後に大型モニターでAi画像を観察しながら精密な剖検を行い、死因究明技術の向上や、従来の画像診断では困難な平面、立体、及び時間的見地も踏まえた遺体画像と臓器所見の対比を実施しています。また、このようにして得られたデータを有効活用して、死因の客観的診断に繋がる遺体診断技術を確立し、臨床診断に応用可能なパラメーターの確立を目指した研究を行っています。さらに、画像データから医学教育や医師の生涯学習に有益な学習コンテンツを作成し、先進イメージング教育に活用しています。

感染病巣局在部位の客観的診断法開発

新型インフルエンザや病原性大腸菌など忘れた頃に話題となる感染症は、厚労省の「人口動態統計」で肺炎がここ25年以上連続で死因4位に定位置化するなど、実は今も昔も変わらぬ重要な疾患でがん患者や脳血管障害患者にも高率に合併します。がんで死亡したとされる患者さんの中には、直接的な死因は合併した感染症であることも多いのです。一方、細菌・真菌感染症では抗菌化学療法が有効なことが多いため、実臨床では早期治療に繋がる確実な病原体検出が重要となります。感染症診断は病原体の培養同定と、それに続く抗生物質感受性試験をもってなされますが、最も診断特異性の高い血液中からの病原体検出率は20%にも満たず、また数日から1週間程度の日数も必要としています。最近では感染症早期診断の取り組みとしてDNA マイクロアレイ法の応用が一部で始まっていますが、病原体検出にはまだ2日程度必要で検出率は血液培養と同程度に留まっています。そのため、発症初期は病原体の存在も不明な状態でempiricな対応を行わざるを得なくなるのが現状で、血液・免疫疾患患者、乳幼児、高齢者などに感染症が発症するとしばしば重症化してしまいます。このような現状から、細菌・真菌の有無を発症初期から確実、且つ可能な限り非侵襲性に診断できる技術の確立が急務となっていますが、生体内で病原体の挙動を解析する適当な手段がほとんどありません。そこで、腫瘍病理学 法木左近准教授、高エネルギー医学研究センター 清野泰准教授、感染症内科 岩崎博道診療教授らと共同で、非侵襲的な感染症の早期診断技術の開発を最終目標に据えて、重症感染症の病態解析を細菌学的、病理学的手法を駆使して進めており、福井大学医学部で独自に合成した[18F]N-アセチルグルコサミンを用いて感染病巣を特異的にPET撮影することに成功しました(写真左上)。

プリン代謝研究

プリンヌクレオチドは核酸やエネルギー代謝物質として細胞の増殖や分化などの正常機能発現に深く関与していますが、その最終代謝産物である尿酸ナトリウム1水和物(MSU、いわゆる「尿酸」)結晶は、過量に存在すると痛風関節炎を引き起こすばかりか、メタボリック症候群とも密接に関連しています。このように尿酸は悪名高いのですが、がんワクチン担体となることや最強の抗酸化物質であることなど、ほとんど知られていないけれども生体に有益な機能も有しています。痛風・高尿酸血症を引き起こす尿酸産生系がなぜ霊長類のみに保持されているのか、という素朴な疑問は進化の根源にも繋がる重要なテーマとも言われています。このようなプリン代謝に関し、本研究室では以下のテーマで研究を進めています。

(1)MSU結晶を利用した免疫療法の構築
これまで、独立行政法人国立病院機構あわら病院 津谷 寛院長らとの共同研究で、多発性骨髄腫由来の単クローン性免疫グロブリンのFab分画を抽出し、これをがんワクチンペプチドとしてMSU結晶に結合させたイディオタイプがんワクチン製剤を開発してきました。この方法を駆使して多発性骨髄腫に対するがん免疫療法の開発を初め、がん以外でも各種ワクチン療法への臨床応用を目指し、基礎・臨床研究を遂行しています。

(2)乳癌の転移・浸潤における、アデノシン代謝酵素関与
これまで、GPI-anchor proteinのひとつであるアデノシン代謝酵素ecto-5′-nucleotidase (eN)が、高悪性度を呈する乳癌細胞に発現することを見出し、生物学的悪性度の指標となることを明らかにしてきました。引き続き、eNと上皮間葉形質転換した悪性化乳癌で高率に発現している中間フィラメントvimentin発現との関連性について検討しています。

分子病理学(病理学2)研究室

TEL
0776-61-8322
FAX
0776-61-8123