福井大学医学部

内科学(1)

研究内容紹介

白血病を中心とした血液がんを薬物療法等により治癒させるための分子生物学より臨床レベルにいたる総合的研究,日和見感染・リケッチア・HIV感染症の病態と治療,痛風・高尿酸血症の基礎的・臨床的検討など広く行っている。

主要研究テーマ

血液グループ

1. 研究テーマ

抗白血病薬の作用機序・耐性機序の解明と薬物動態の検討

2.特色

我が国で、がん化学療法薬の作用機序と薬物動態を研究の中心テーマとする唯一の血液内科である。
臨床においては急性白血病などの造血器悪性腫瘍に対する化学療法をメインテーマとしている。JALSG(Japan Adult Leukemia Study Group)および我々の主催する北陸造血器腫瘍研究会のプロトコールにエントリーをおこない多施設治療研究に参加している。特に、急性骨髄性白血病に関しては、我々が中心となって考案した北陸造血器腫瘍研究会プロトコールにより優れた成績(治癒率40%)が得られている。これらの実際の経験を理論とのクロストークにより、さらに発展させエビデンスを確立することを目標として、化学療法の際に使用される抗腫瘍薬の分子薬理学的作用機構の解明に関する研究に取り組んでいる。

3. 研究概要

研究テーマについて大別すると、
1)抗がん薬に対する耐性機構の分子薬理学的解明とその克服。2)分子標的治療薬についての研究。3)抗がん薬の細胞内薬理動態。の解明に分類できる。現在、azacytidine やボルテゾミブの作用機序の研究をおこなっている。またara-Gに対する耐性機序の検討もおこなっている。新規のSurvivin阻害剤YM155の作用機序に関する研究も進行中である。抗がん薬の細胞内薬理,動態については、先進医療シーズとしてアドリアマイシン,ビンクリスチンの代謝とGSTM1の遺伝子多型の関連について検討している。臨床的には、多施設共同の臨床研究に多数参加している。

4. 業績年の進歩状況

Auroraキナーゼ阻害剤とara-Cの併用療法に関してin vitroの検討をおこない論文として報告した。Survivin阻害剤YM155の白血病細胞に対するアポトーシス誘導メカニズムについて論文として発表した。プリンヌクレオシドアナログ clofarabine に対する耐性白血病細胞を樹立して、その耐性メカニズムについてトランスポーターの発現の低下やBcl-2の発現亢進が関与していることを論文として報告した。新規のチロシンキナーゼ阻害剤であるponatinibとpanobinostatの併用療法についての検討も発展しつつある。

感染症グループ

1.研究テーマ

コンプロマイズドホストに合併する感染症の診断と治療/感染症重症化のメカニズム解明/新興リケッチア感染症救命のための新治療法開発

2. 特色

造血器疾患患者やエイズ患者は、宿主の免疫機能不全を伴うことにより、易感染性の状態となる。これらの症例に合併する感染症は、起炎菌ならびに感染病巣の同定が困難であり、治療に対しても難反応性を示す。現在進めている血液を用いたマイクロアレイによる敗血症診断は迅速性を有することより、今後一層の臨床応用が期待されている。感染症に対して、優れた有効性を示すテトラサイクリン系、マクロライド系フルオロキノロン系抗菌剤、およびキャンディン系抗真菌剤など複数の抗微生物薬の作用機序に、抗微生物活性とは異なるサイトカイン産生修飾活性を有することを明らかにしつつある。マルチプレックスアッセイでは20種以上のサイトカインを同時に測定することが可能となり、その結果よりケモカイン(IL-8, MCP-1, MIP-1α, MIP1-β 等)の動態が、リケッチア感染症制御に重要な役割を担う可能性が示唆された。岩崎らはリケッチア感染症について、これまで厚生労働省の新興・再興感染症科学研究事業の研究班に所属し、全国的共同研究を進めてきた。2009年に組織された日本リケッチア症臨床研究会でも、学振科学研究費や、学内先進医療シーズ研究費の援助を得て、日本紅斑熱に関する全国的調査活動を開始した。この様に、臨床的、基礎的に投入された資金は、有効に使用され、着実な成果をあげている。

3.研究概要

造血器腫瘍疾患や免疫抑制剤治療下など、コンプロマイズドホストに合併する真菌および細菌感染症を中心として、診断と治療の臨床的検討を進めている。中でも病原診断が難しい発熱性好中球減少症(febrile neutropenia)症例に対する新しい敗血症診断法の開発を進めている。また重症感染症では、しばしば全身性炎症反応症候群(SIRS : systemic inflammatory response syndrome)を来すが、この本態はサイトカイン産生異常に起因する生体の過剰防御反応であることが明らかとなってきた。従って、過剰なサイトカインを制御することにより感染症の治療成績が向上する可能性があることに着目し、臨床的ならびに基礎的に新しい治療法の開発も視野に入れ、検討を行っている。近年、我が国に新興リケッチア感染症・日本紅斑熱の届出が急増し死亡例も増加しているため、適切な治療法の確立と疫学調査が急務となっている。

4.業績年の進捗状況

敗血症の診断として、DNAマイクロアレイを用いた血液由来病原体の迅速診断法の有用性が確認され、本法を用いた早期診断により救命できた症例も蓄積された。基礎実験的には、一部の抗菌剤や抗真菌剤が有する炎症性サイトカイン(TNF-α,IL-12p40, IFN-γ等)の産生修飾作用について明らかにした。臨床的に経験するリケッチア感染症におけるテトラサイクリン系薬剤の劇的な有効性がサイトカイン産生修飾による可能性が推測されており、そのメカニズム解明を実験的に検討してきた。近年、網羅的サイトカイン測定を可能にしたマルチプレックスアッセイシステムを用いて、同時に多種のサイトカイン測定を用いた研究を開始した。新興リケッチア感染症である日本紅斑熱の病態解明および新しい有効治療法の確立が急務となったため、当科に事務局を置く、日本リケッチア症臨床研究会を中心として検討を進めている。多剤耐性グラム陰性桿菌の新治療薬として、近年注目されている新規テトラサイクリン系抗菌薬・チゲサイクリンの作用機序解明のため基礎的研究を開始した。

内科学(1)研究室

TEL
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Webサイト
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