福井大学医学部

認知症医学推進講座

概略

平成29年4月1日福井大学認知症医学推進講座(Department of Aging and Dementia: DAD)が発足いたしました。
福井県では全国に先駆けて高齢化率が増加しています。平成29 年7 月現在で29.7%に達しています。それに伴い福井県の認知症患者数も増加の一途をたどっており、3万人を超えるものと推察されます。この事態を重く見た福井県はこのたび寄附講座認知症医学推進講座を発足する運びとなりました。精神医学講座武藤悠平先生、第二内科(神経内科)白藤法道先生が助教として赴任しました。また精神医学講座和田有司教授、第二内科(神経内科)濱野忠則准教授が併任の教官となりました。
認知症の早期診断・予防につながる検診事業や、かかりつけ医の連携を推進できる人材を育成します。その他タウ・シヌクレイの細胞モデルを用いた認知症の基礎研究も行うことができます。あわせて認知症関連論文を学位論文として完成させます。
福井大学病院では世界で同時に開始する早期のアルツハイマー型認知症に対するβセク武藤悠平助教 和田有司教授 白藤法道助教 濱野忠則准教授レターゼ(BACE)阻害薬を用いた治験も参加します。これからの福井大学医学部認知症医療推進講座にお力添えくださいますようお願いいたします。

研究テーマ

1.せん妄の病態メカニズム解明と治療戦略の構築 武藤悠平医師

せん妄は入院中の高齢者に高い頻度で見られる急性の意識・認知機能障害である。せん妄は認知症の予後にも大きく影響し、長期化したせん妄はその後の認知機能低下につながるという数多くの報告があり、早期発見・介入が非常に重要である。
研究では、せん妄患者における神経ネットワーク機能を、脳波解析を用いて経時的に評価し、個々の患者における臨床的背景(年齢、既往歴、せん妄の原因と考えられる因子、せん妄の重症度等)、治療経過、簡易認知機能検査の得点の変遷を交えて比較検討し、せん妄における神経ネットワーク障害の特徴を浮き彫りにし、その病態メカニズムを解明する。
この試みは、せん妄の実践的な臨床検査指標の確立に貢献し、早期発見・介入、さらには認知症を中心とした認知機能障害の予防につなげていくことを目的とする。

2.認知症発症の予防に向けた認知機能低下と生活習慣の変化の検討 武藤悠平医師

記憶障害に気づいて初めて医療機関を受診し、認知症と診断されるのが一般的である。しかし近年、記憶以外の領域の軽微な認知機能低下が、記憶障害に先んじて出現し、介入によりその機能低下が改善するとの報告がなされている。認知症の予防と早期介入には、将来の認知症への進行を予測する軽微な認知機能低下とそれに関連する生活機能・生活習慣の変化を特定する必要がある。
研究では、地域在住の65 歳以上の健常高齢者を対象として、質問紙法を用いた活動能力の評価、生活習慣の評価および多領域の認知機能検査(ファイブコグ、CANTAB 等)を行い、各々の対象者に関して毎年1 回、同様の追跡調査を行う。経時的な追跡調査により、各領域の認知機能低下とそれに関連する生活機能・習慣の変化の時系列を解明する。これらの結果から、軽微な認知機能低下および生活機能・習慣の変化の特徴を明らかにし、認知症の予防・早期介入へつなげていく。

3.「ホモシステインがタウ蛋白オリゴマー形成に及ぼす分子機構の解明」白藤法道医師

アルツハイマー病(AD)の主たる病理所見である神経原線維変化(NFT)は高度にリン酸化し、重合したタウ蛋白より構成される。なお、葉酸、ビタミンB12 欠乏により生じる高ホモシステイン(Hcy)血症は、AD の独立した危険因子である。我々の臨床的研究では、葉酸欠乏症患者に対する葉酸補充により認知機能の改善のみならず、Hcy 値の低下が認められた。
高Hcy 血症によるAD 発症機序を解明するため、TetOff 誘導系を導入し、野生型タウ蛋白(4R0N)を発現する神経系細胞を用い、高Hcy 血症がアポトーシス誘導機構を介したタウ重合・オリゴマー形成を引き起こし、AD に至るメカニズムを解明することを本研究の主たる目的とする。同時に変異型タウマウスモデル(P301S)にビタミンB6, B12、葉酸欠乏食を投与することにより高ホモシステイン血症を惹起し、タウオリゴマー促進機構についてもin vivo で解明する。

4.福井県もの忘れ検診による認知症早期診断の効果判定に関する研究 濱野忠則医師

日本の平均寿命は 男性 80.2 歳、女性86.6 歳と順調に伸びているものの、それに反して健康寿命は男性 72.3 歳、女性77.7 歳と、平均寿命との大きな開きがあることが問題視されている。生活障害から要介護となる原因は1.脳血管障害、2.認知症、3.骨折、関節疾患 の順となっている。このように人生ラスト10 年問題として認知症対策が重要であることが強調されている。
しかし、認知症の対策は、現時点では早期診断、早期治療により進行を遅らせる以外にはないことが明らかである。平成23 年3 月17 日に発行された西川一誠知事のマニフェスト「福井新々元気宣言」の1 つとして◆元気生活のアクティブシニア、「元気活動率日本一」へ。この一環として先導的な認知症ケアに着手-開始した。福井県定年齢検診委員会の作成した認知症アンケートが福井県在住の65 歳以上の高齢者の認知症早期発見に寄与するか否かを検討する。基本調査にて質問1~11 に回答いただく。アンケートは、①外出をしているか ②買い物を自分でするか ③預貯金の出し入れをしているか ④電話番号を調べて電話をかけるか ⑤日付がわからないことがあるか ⑥趣味をしなくなった ⑦性格の変化 ⑧周囲からの物忘れの指摘 ⑨道に迷うことがあるか ⑩電気の消し忘れがあるか ⑪最近の出来事を思い出せない、の11項目より構成される。
アンケート調査で認知症の疑いありと判断された場合、県内の指定病院を受診していただき、Mini-mental state examination (MMSE)、神経学的診察、および頭部MRI 検査にて、認知症の有無、および病型を診断する。アンケートによる認知症早期診断の有効性が明らかになれば、認知症の早期診断、早期介入が可能となり、健康寿命の延長のための有効なプログラムとして提案することができる。
我々の40,000 人から返答いただいたアンケート調査、ならびにof 2,516 名の認知機能検査(MMSE)の解析結果では、怒りっぽくなった方は認知機能検査MMSE が23 点以下である確率(オッズ比)は1.88 倍であることが判明した(P=0.000)。また 趣味に興味を失った方はMMSE が23 点以下である確率(オッズ比)は1.712 倍であることが判明し早期診断に役立てることができた。

認知症医学推進講座研究室